タイトル


能書き

 名古屋で生きるのはある種の人々にとって快適である。
 ある種の人々というのは、田舎では暮らせない。かといって、都会の喧噪の中で暮らすのも息が詰まりそうだと考えているような人々のことである。
 あくまでも比較の上でのことになるが、名古屋は一応大都市である。主たる施設は揃っているし、何か手に入れるにも左程困らない。しかしながら、東京のような大都会に比べると、何につけても規模は小さい。一通りのものは手に入れられるが、バリエーションが少ない。昔から言われていることだが、名古屋の夜は早い。8時を過ぎると都心で空いてる店がぐっと少なくなる。日本一を誇る数の筈の喫茶店も開いてる店を探すのに困るぐらいだ。
 それでいて、東京などへ出掛けて、名古屋に戻ってくるとほっとする。それは名古屋がMy Home Townであるという理由だけのみならず、やはり規模の適度さということにあるような気がする。思わず見上げるような高層建築はまだまだ少ない。街を歩く人通りも東京のそれと比べれば、穏やかなものだ。息が詰まるといった感じはしない。「大いなる田舎」などと揶揄される所以ではあるが、その中途半端ともいえる感覚がかえって心地良い。
 僕自身は、東京への根強いコンプレックスはある。しかしながら、どちらで生活するかを問われれば、やはり名古屋を選択するだろう。そんなそこはかとなく名古屋を愛する気持ちでこのページを作ってみた。

 しゃちほこ・エビフライ・味噌煮込み....これらを名古屋のシンボルとして標榜するのは実は嫌いだ。名古屋弁・結婚式・広い道....これらを名古屋のトピックとして取り上げるのも実は嫌いだ。名古屋を他所に紹介するとき、これらのキーワードは本当に欠かせないものなのか。僕も名古屋人であるから、それらの個々のもの自体は好きだし、また生理にあっている。だけど、そうした名古屋紹介にはもう飽き飽きしたぞ。
 ここでは、名古屋で生活している状況をそのまま伝えたい。実際名古屋で生きている人にとってそれが有益な情報になるかどうかはわからない。ま、期待しないでご覧下さい。


覚王山周辺の事など (97/11/15)

 僕の生まれは千種区覚王山である。というわけで、「名古屋で生きる」、一番最初に覚王山周辺の事など語っておきたい。
 5才まで、日泰寺参道脇のアパートで過ごした。そんな頃ぐらいまでだから、思い出も限られている。時代でいえば昭和45年以前という事になる。しかしながら参道周辺の雰囲気は、当時と今とそれほどかけ離れてはいない。広小路に出れば、確かに市電が走っていたし、現在参道の裏に多いと云われるオシャレな店も確かになかった。けれど当時あった店の多くはまだその姿を残している。

 例えば、串かつの「多古八」。ここの串かつはそれこそおやつ代わりに食べていた。この味はどうしても忘れられない。肉中心というより衣中心。肉は竹串の周辺にかろうじてまとわりついているだけで、その周辺をもっちりした衣がくるみ、パン粉が被され、全体としては小振りに揚げてある。出来立てはラードの香りがたまらない。これはもう何本でもいける。当時は、味噌味・カレー味などはなかったと思う。店にはソースがたっぷり入った金だらいがテーブルごとに用意され、そこにザク切りにされたキャベツとともにどっぷりと付け込んで食べる。おやつで食べるならば、ソースなしでも充分イケル。決して高い肉など使ってはいまいと思わせるが、豚の風味を活かしきった喰い物だとつくづく思う。
 例えば、お好み焼きの「お好」。ここのおばちゃんが焼いてくれる、焼きそばとお好み焼きも、思えばおやつ代わりであった。ここのお好み焼きは、薄く塗り伸ばした下地にたっぷりのキャベツ、天かす、具等を載せて焼く、いわゆる「名古屋風」お好み焼きだ。基本は「広島風」に似ているが、あそこまでキャベツをうずたかく積み上げないし、そば等も加えない。「大阪風」のようにすべてを混ぜ合わせてから焼くというのでもない。僕はいまだにお好み焼きはこれが一番と思っているし、家で焼くのもこの焼き方だ。ネギ焼きの延長上にある物であろう。具も余りいろいろな物をぐちゃぐちゃ入れない。帆立や牡蠣等を入れると味が出てうまいという向きもいるだろうが、水が出るのでこの焼き方には向かない。好みをいえば、豚オンリー、強いていえば豚玉までが一番うまいと思う。烏賊もこれにはかなわない。豚の脂身が薄い下地にじんわり染み渡る、この具合が実に良い。なんだ結局俺が豚を好きなだけか。店の外に置いてある縁台で、森永のヨーグルト(瓶入りの奴)を食べるのも楽しみであった。
 喰いもので言えば、後は鬼まん。あ、店の名前をちょっくら忘れたけど、今やTVや雑誌で超有名なあそこですな。現在は午後を過ぎるともう売り切れとの事であるが、当時はそれほど評判じゃなかった筈で、よく食べたものである。それと「菊や」のカレーうどん。これも後に有名になったみたいだけど、今でもあるのかな。

 覚王山といえば日泰寺であるが、その参道では毎月「弘法さん」と云って縁日が出る。今でもおばあちゃん大集合の行事として八事の興正寺の縁日と共に取り上げられることが多い。当時はみたらし、トウモロコシ等の屋台や、野菜、漬物、布地等の屋台に混じって、今でいうフリーマーケット状態というか、そこら辺のガキンチョが、家でいらなくなった物を茣蓙ひとつ敷いて売っているという光景も良く見かけた。読み終わってぼろぼろの少年マガジンとか、半分壊れたおもちゃとかそんな物も売っていたように思う。幼き頃にはそれらの品物も何故か眩しく見えるものだ。先日、20年振りぐらいに出かけたが、基本的には何も変わってなかった。

 今では、名古屋中心部に近い高級住宅街的なイメージがあるが、下町の雰囲気も充分残した、東京で言えば、田園調布と柴又と吉祥寺を足して割ったようなそんな街である


99年末オープン名古屋新名所 【00/1/15】

1999年末に相次いでオープンした、名古屋の新スポットに行って来たので簡単にレポートしておこう。

【BAY CITY】(2000/1/8調査)

 11月に港区品川町にオープンした、ジャスコ名古屋みなと店と専門店街、複合映画館のヴァージンシネマズを総称して「BAY CITY」と呼称するようだ。(ちなみに近辺にローラーズは見あたらなかったぞ)。名古屋競馬場の少し南にあたる広大な場所にある。ゴルフ場があったところではないかな。
 知人(beatle君)の住むマンションの真ん前にどかーんとそびえ立つ。なんもなかったところの筈なのだが。えらいものが出来たもんだ。とりあえず、都心に出ずとも、ここだけでほとんどの用事は済んでしまうのではないか。

 行ったのは土曜日の昼前。1回目はオープン直後の夕方に向かったのだが、駐車場に入る車のあまりの列に恐れをなし、ギブアップ。今回は西側から回り込むことで混雑を回避。なんなく駐車場に滑り込む。この時間帯ならまだ大丈夫なようだ。しかし、午後になるにつれどんどん車が流れこんでくる。3時過ぎに帰る頃には、前回同様大混雑。立体駐車場含め膨大な駐車スペースがある筈なのだが、まあオープンしたてということもあるだろうがそれよりも、大きな道から辿り着くまでの道が細すぎることにも原因があるだろう。環状線から入るのは避けた方がいいかも。行くときはご用心。
 ジャスコ自体は3階構成。これだけなら西区の「ワンダーシティ」よりも狭いぐらいかも。それでもあっちはゴミゴミした印象があるが、こちらはゆったり仕様。通路も広く、人がある程度いても落ち着いてショッピングできる。欲をいえば、アミューズメント(子供向け)をもう少し大きなスペースにして欲しかった。この点は「ワンダーシティ」の勝ち。
 1Fの食品売場もさすがに、つめこんだ雰囲気はある。しかし天井は高いので、息苦しいという程でもない。 ウチの食品購入担当に云わせればあまりたいしたものはない、とのことだが、惣菜とかは結構充実。
 大きな数個所の吹き抜けを挟んで120の専門店街棟。こちらの4階はレストラン街と屋外のガーデニングコーナーが隣接。「にんにくや」「文化洋食店」「上海湯包小館」などのテナントが立ち並ぶ。「上海...」に入ろうとするも、丁度昼時で長蛇の列。子連れゆえ、諦める。
 他のテナントは今回あまりゆっくり見ていない。というか、じっくり回れば一日つぶれる。「ディズニーストア」や「ヴィレッジ・ヴァンガード」はとにかく凄い人混み。特に後者は通路が狭すぎて行き来ができない程で人の流れの渋滞があちこちで起っていて、立ち読みものんびりできない。 他にCDは「ヴァージン」、書籍は「未来屋書店」が入っているようだが、覗きもできなかったので、感想はまた次回。
 規模として近郊のスポットで匹敵するのは、「マイカル桑名」ぐらいだろうか。港とはいえ、市内にこんなものができたのは驚きだ。ほぼ車でしか行きようのない場所だけに、周辺の道路の狭さだけがネック。アベックでも家族連れでもマニアでも楽しめるスポットといえるだろう。

【セントラルタワーズ】(2000/1/12調査)

 12月末に遂に一部オープンしたJR名古屋駅セントラルタワーズに行ってみた。
 JR東口のイメージが大きく変わった。普段それほど名駅に行かない人なので、変貌ぶりは新鮮。東京駅八重洲口のミニ版というにはおこがましいかも知れないが、 うーん、やっぱり相当差があるな。高島屋がまだオープン前なので、まだ雰囲気は変わるだろう。
 現状で行けるのは、12階までエレベータで登ってそこからエスカレータで登る13階のレストラン街と、てっぺんの展望台だけだ。今回は目的が「江南」のらーめんを食べることであったので、レストラン街どまり。そこからでも充分眺望はできる。
 どこもかもピカピカなので、気持ちいい。今のうち今のうち。
 交通の便は云うまでもないので、目新しさも手伝って、来るなといっても人が集まるだろう。高い金払って展望台登るかどうかは別として。


【名古屋大辞典】

地下鉄(99/4/10)
だがや(98/4/24)
コメダ珈琲(98/4/24)

地下鉄【ちかてつ】(都市機能)

 名古屋の交通機関の基本である。名古屋では地上の鉄道は、市外からの交通手段といった意味合いが強い。中央線も東海道線も名鉄・近鉄も、名古屋駅を中心に名古屋をかすめて通っているという感じである。現実問題、名古屋の東半分で生活していると日常、踏切というものを見る機会はほとんど少ないであろう。
 だから市内の移動はほとんど地下鉄か市バスを頼るということになる。でなければ、車での移動となる。名古屋が車社会であると云われる所以である。道が広いという点もその条件に合致しているといえよう。
 その地下鉄も環状線すらない状態で4つの路線が交差し、ある場所からある場所への移動が極めて不合理になる場合がある。例えば、名古屋東部にある本郷から平針までは、南北に一本の道で移動できる位置関係にあるのだが、地下鉄で移動しようとするといったん市の中央部まで西に行き、乗り換えて少し南に下って今度は東に戻らなければならない。
 昔は市バスが結構長い距離を市内を縦横に走っていたものであるが、今や地下鉄が通っていない場所から地下鉄駅までの繋ぎ的役割がほとんどで、市バスだけで移動を完了できるのは、かなり幸運なケースといえる。ほとんどが、乗り継ぎを重ねなければならないであろう。
 そして地下鉄の駅を中心にして街が栄えていくという図式になる。だから、名古屋には東京のような意味合いでの駅前の雰囲気を持った街はほとんど少ない。繁華街・栄にしろ、地上を歩いている人は少なく、みんな地下に潜っている、地下街王国といわれるのもそんなところが理由になっているのではあるまいか。JRや名鉄が乗り入れる金山や、地下鉄が高架に上がった所にある藤が丘などは、そうした意味で東京の駅前に似た雰囲気を持っていると感じる。
 名古屋市内で生活する人間の大多数にとって、「駅」とは地下鉄の駅のことである。それだけ地下鉄は市民生活に密着し、また愛されてもいるのであろうが、このことが「白い街」と呼ばれる名古屋の景観にも大きな影響を与えているといえるであろう。

だがや【だがや】(言葉)

 日常名古屋弁の基本中の基本。会話の語尾につく。断定の終助詞といったところか。「俺のツレだがや」などと 使う。他所の人には「だぎゃあ」などという所謂「みゃあみゃあ言葉」の音で広められているようだが、中年以降の 人で「みゃあ」とか「ぎゃあ」とかいう人はあまり聞かない。はっきりと「だがや」あるいは「だがー」という発音の方 が現在では多いのではないか。「知らんがや」「うまいがや」などと「だ」がつかない助動詞的使い方もある。「が や」とはっきり言うのは男性的使い方。女性は語尾を濁し「知らんがー」「そうだがー」などとなる場合がほとんど。
 これとほぼ同じ使い方をするのが、「知らんて」「そうだて」「うまいて」などと語尾につく「て」。「てー」と伸びる場 合も多い。これは「がや」の断定的表現に比べ、同意を求めるような意味が込められているのかも知れない。「何 だて」と使う場合もあるが、これは「何だっていうの?」→「何だて言うとるがや」という意味であるから、「知らんて」 というのも「知らんていっとるがや」の略であると見るのが妥当であろう。つまり断定の表現である「がや」をさらに 強調しているわけである。つまりパイレーツで言うところの「だっちゅうの」である。
 キリンビールの名古屋ご当地販売ビールは「でらうま」という名前であるが、キリンには折角「ラガー」というロン グセラーがあるのだから、「ダガー」とでもすれば良かったのにというのはこないだ思いついた。

コメダ珈琲【こめだ・こーひー】(店・食べ物)

 名古屋地区最大級の喫茶店チェーン。ここ数年で怒濤のごとく増えた。既に100店舗は越えている筈である。本 店は石川橋から八事・雲雀ヶ丘に抜ける道の途中にあるが、ロッジスタイルというのかウッドハウススタイルという のか、内装・外装は全店舗、本店のスタイルを継承している。メニューもほぼ統一。店によって独自メニューを出 しているケースもあるようだが、基本メニューは一緒。周辺部に行くほどチェーンの数は増え、市内のみならず近 郊市街地でも必ずといっていいほど良く見かける。緑区などもまったくもってコメダまるけである。
 ドトールコーヒー等の低価格喫茶店が、東京等と比べ名古屋であまり受け入れられていないという事実がある ようだが、それに比してのコメダのこの人気は何なのだろう。そもそも喫茶店王国(人口に対する喫茶店の数が 日本一)である名古屋近辺において、これだけのシェアを獲得しているには何か理由があるはずだ。コーヒーの 代金自体は360円で、名古屋の普通の喫茶店と比べ、高くもないが特に安いわけでもない。コーヒーの価格自体 が問題となるわけではないのは、ドトールがそれほど成功していないことからも明らかであろう。名古屋の人は確 かにケチかも知れないが、低価格だという事実だけでは動かないのである。それにプラスした「何か得した気分」 が得られなければ納得しない。
 ドトールは確かに安い。安いが店舗の雰囲気は、我々にとってなんだか落ち着かない。一人で入ってちょっと一 服するにはいいが、数人でどやどや入って長居してくっちゃべるというのには向かない。コメダの場合、大体にお いて店舗は広めに作られており、4人掛け以上の席がほとんどである。椅子もドトールのスツール風に比べ、ソ ファ風で腰を落ち着けやすい。内装は高級感を醸し出しているわけではないが、決して安っぽくもなく親しみ易 い。
 コーヒーの味自体もまずまずだし、軽食のメニューもパン系を中心に豊富だし、金額も手ごろな割りにボリュー ム感がある。全店舗統一されているので、どこの店に入ってもそうした特徴は保証され、安心感がある。そんなと ころが人気の理由なのだろう。
 お勧めメニューとしては、「シロノワール」というものがある。一般的な名称なのかどうか分らないが、少なくとも 僕はコメダでしか見たことがない。クロワッサン生地風の円形の大きな温かいパンの上にソフトクリームがとぐろ を巻いているという見かけからして強烈な代物だが、そこへさらにホットケーキ風にシロップをかけ、甘くして食べる。辛党の方は顔をし かめるかも知れないが、溶けたソフトクリームとシロップがパンに染み込んで絶品の味わい。ボリューム的にはか なりの量。ケーキを食べるような気分でうっかり頼むと大変なことになる。
 「生オレンジジュース」も、独特の球状のガラスの入れ物に入っていて量が多い。「カツサンド」もかなりのボ リューム。何だ結局ボリュームに目くらましされてるのかって感じだけども、そーした「何か得した気分」が得られ なければ、名古屋ではやっていけないのだよ。


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