今年の初めに島田荘司の『写楽 閉じた国の幻』が文庫化され(新潮文庫)、読もうと思っているうちに売れているのか本屋で見かけなかったりしてタイミングを逸していて、最近やっと読了した。
島田荘司を読むのは何年ぶりだろうか。おそらく『龍臥亭事件』以来だろう。
ひと頃はかなり入れ込んで、新作が出ると有給を取って読みふけるなどということまでしていたっけ。『奇想、天を動かす』や『暗闇坂の人喰いの木』はそんな感じで読んだ。で、『水晶のピラミッド』でおや?と思い、『眩暈』でめまいがして、『アトポス』で無の境地になりつつも『龍臥亭事件』はキャラ興味で付き合ったという感じか。
その後の作品で読むべきものがあるようだったら教えてくださいな。
で、『写楽 閉じた国の幻』だが、これは2010年の各種ミステリベスト国内ランキングで上位(「このミステリーがすごい!」二位、「週刊文春ミステリーベスト」六位、「ミステリが読みたい!」三位、「本格ミステリベスト10」七位)に位置し、島田作品としてもひさびさに世評の高い一作となっていたので気にはなっていた。
浮世絵に関しては門外漢ではあるが、一時、高橋克彦の浮世絵三部作を読むなどして感化され、ひととおりの浅い知識は得た上で、美術館などで親しんでいた時期はある。
だから写楽の謎に関しても人並みの興味は持ってはいたので、どんな論を持ち出してくるのか楽しみにはしていた。
冒頭からいきなり主人公が遭遇する事態があまりにも悲劇的で、呆気にとられたまま物語はスタートする。すぐに、ああ、あの現実にあった事件を下敷きにしているのか、と見当はつくのだが、それがどう写楽の謎と結びついていくのか、それを興味の一方として引っ張っていく。
その絡みで著者お得意の現代日本人批判がちょくちょく顔を出すのはご愛敬。
興味のもう一方というか、本筋といえる写楽の謎究明は正直ゾクゾクするほど面白いのだが、何度も同じ説明が繰り返し出てきてクドいし、その蛇足の説明の最たるものであるのが途中数度挟まれる江戸編であり、終盤、謎が解明され盛り上がってきたところで結構長い江戸編が挿入され、折角の解明された謎をフィクションとして語り直されるのには閉口した。
あげくの果てに、主人公を襲った悲劇と写楽の謎の関連性に関しては一通りの解釈は示される物の、引っ張ってきた思わせぶりなキャラクターの正体の説明を含めて放り投げられてしまっており、これで終わるつもりか、と憤然とせざるを得ない。
ただその点は著者も確信犯で「後書き」にて弁明がされている。気が向けば続編が登場するのだろうが、写楽の謎自体は解けてしまっている(ここでは)ので、本書でも少し触れられた北斎かなにかを絡めてくるのかなあ。
ここまで批判的な言辞を書き連ねてきたわけだが、悔しいかな、読ませるし、本筋の写楽の謎究明は滅法、魅力的ではあるのだ。
大変いびつな大作と云わざるを得ない。
これが、著者の持ち味といえるのかもしれない。読み残してきた過去作も読みたくなってしまったじゃないか!