名古屋エレキング倶楽部 第三回 LACTOSE2月号〔1989.1.31発行〕掲載

小泉、アクビ娘になる


 第三回は、当時お得意のアイドル論。小泉今日子については、ずっと追いかけていたので(追っかけではない)、結構あちこちにいろいろ書き残している。
 今となっては、という感の強い原稿ではあるが、ま、こんなこともしてましたという意味で残しておく。

 わたくし、長年、小泉今日子のファンをやってきたわけですが、いや、驚きました。

 先日、<明星>12月号などを、ペラペラめくっておると、そんなかに「アイドルのマイ・ベスト・カセット」なる企画が載っておったわけです。よーするに、アイドルたちが自分たちの好きな曲で、テープを一本作ってみたらこうなったという企画なんですな。日頃、本誌編集長などと、自分の編集したテープを交換して遊んでいた注1わたくしといたしましては、興味深くその記事を読んだわけですね。ま、だいたいのアイドルたちは、ユーミンとか、久保田とかのニューミュージック系(死語)や、ビルボードに載るような洋楽なんかがズラズラっと並べてあってイカニモなのですが、小泉先生は違います。フィンガー5だの、ビューティーペアだの、ジューシーフルーツだの、岡崎友紀だの、キャロルだのとドヒャドヒャとなるような曲が並んでおるのですね。で、コメントを読んでみると、このセンでアルバムを企画してるってーじゃああーりませんか。狂喜、だよね。小泉版『カヴァーズ』注2ですよ、これは。

 しばらくして、今度は<宝島>12月号を読んでいると、そのアルバムタイトルが『ナツメロ』であるということと、正式なラインナップ注3が載ってるのですね。ガガーンですよ。
 本誌編集長はそれを「超能力」と呼びましたね。私自身も、こりゃ電波がきてる、と思いましたね。なぜなら、そのラインナップは、ほんの少し前、本誌編集長に僕が編集して送りつけたテープのコンセプトとほとんど同じだったわけです。僕がそのテープに入れたかも知れない曲がバーンと並んでおるのです。
 要するに、僕らの世代が少年少女時代に親しんだ曲の数々……。「学園天国」フィンガー5、「S.O.S」ピンクレディー、「恋はベンチシート」ジューシーフルーツ……。そして極めつけは「アクビ娘」(ハクション大魔王)。これにはタマげた。これはぼくのテープにもまんま入っている。他の曲は予想がついても、この曲が入るなんて俺の他に誰が予想したか! わっはっは。
 いや、別に予想したわけじゃないんだけどね。こうして考えると、企画の時期はだいたい重なるし、俺か小泉のどっちかが、電波送ってたとしか思えんぞ注4。キャンディーズの中でも「やさしい悪魔」を選ぶとこなんざ、私の好みとしかいいようがない。ちょっと前の小泉だったら、ぜひとも「書中お見舞い申し上げます」を歌ってほしかったけどね。しかも、ツイストは「SOPPO」ですよ。シブい。シブすぎる。ツイストが落ち目になっていく直前の曲ですね。大ヒット曲ではつまらない、かといって誰も知らないようなマイナー名曲では狙いすぎ。そのちょうどうまい間を狙った見事な選曲。

 それゆえ、このラインナップに、文句はない。が、こーゆうのもやってほしかったってのを考えてみました。
 まず、不思議なのは、小泉が大のファンだったはずの石野真子の曲がはいっとらんぞ。「わたしの首領」とかではあたりまえすぎるから、ここは「日曜日はストレンジャー」とか「ワンダーブギ」とかではどうだろう。榊原郁恵だったら、「あなたは『おもしろマガジン』」とかがいいな。いや、しかしここらへんの曲を歌ってしまうと、ヘタするとデビュー当時のキョンキョンに戻ってしまうだけという危うさがあるな。「私の16才」とかのね。そーか、それで入れなかったのか。ううむ、深い!注5
 じゃあこーゆうのはどーだ。「ドール」大田裕美。これならデビュー時の小泉と重ならんだろう。けど、声質が合わんかな。「チャイナタウンでよろめいて」相本久美子ではどーだ。うーん、やはり女性アイドルのをそのまま歌ってしまうのは、難しいところかもしれない。
 そうだ、ジュリーを忘れていた。これはぜひやってほしいな。「ダーリング」とか「TOKIO」なんてハマるだろうし、「ロンリーウルフ」や「カサブランカ・ダンディ」なんかのシブめもおもしろい。でも、ここはやはり「憎みきれないろくでなし」を歌ってもらおう。
 あとはそーだな、渡辺真知子「ブルー」、チャー「girl」、甲斐バンド「ビューティフル・エナジー」、シーナ&ロケット「ベイビー・メイビー」、イモ欽トリオ「ティアドロップ探偵団」などなど。
 他にも、チャクラの「福の種」も小泉が歌ったらどーなるのだろーとか、ピンクレディはあのビーチボーイズがコーラスをつけていたという「波乗りパイレーツ」でもよかったんではないかとか、いろいろあるけれど、もう「アクビ娘」を歌うというそのひとつだけで十分満足しとります。

 小泉今日子が「アクビ娘」を歌う! うーん、、震えてくるではないか。イメージふくらむでしょ。同じアニソンなら、「アッコちゃん」を「キョーコちゃん」に代えて「すきすきソング」もよかったような気がするが、やはりここは「アクビ娘」である。こうしてみると、キョンキョン=アクビ娘、って感じがしてくるから不思議だ。これこそ僕が前から言っている、小泉の最大の魅力なのだ。((Light Worlds)vol.1, vol.2 参照)注6
 つまり、はなからアクビ娘のイメージが小泉にピッタリだったというのではない。アクビ娘に、小泉今日子を並べてみてはじめて、小泉の魅力がアクビ娘のイメージを引っ張りよせるのである。これを小泉の<イメージ吸引能力>と呼ぶのだ。この能力によって、小泉は今まで「まっ赤な女の子」や「艶姿ナミダ娘」や「迷宮のアンドローラ」でありつつ、小泉今日子そのものでありつづけたのである。これが彼女の【タイトル=キャッチフレーズ】路線のヒット曲注7を生んできたのだ。
 小泉に合わせてキャッチフレーズをつくる必要はないのである。彼女に対して言葉を投げかけたとたん、小泉はその言葉のイメージをまといつつ自走するのだ。(言うまでもなく、その決定版が「なんてったってアイドル」)これこそ小泉が、CMキャラクターとして他のアイドルたちより成功している最大の原因なのである。

 ぎゃはははは。どーだ、これでわかったか。わかったならレコード屋に走って、『ナツメロ』を買え!



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