沈黙のあと
キャロルの新作が久々に創元から近々出るというので、慌てて本棚から未読のハードカバーを引っ張り出す。
ジョナサン・キャロルは大好きな作家で、文庫で出るたびにその都度読んできていたのだが、ハードカバーで出るようになって、ぴたりと読むのを辞めていたのだ。もう10年以上も経つのだなあ。
その理由は、当時ハードカバーを読む習慣がなかったこともあるのだが、楽しみに取っておこうという気持ちも働いていたのは事実である。キャロルを読むという至福の体験を先延ばしにしたいという気持ち。
その間に出た長編2冊と短編集2冊が未読であった。
その内の最初に出たのが、この『沈黙のあと』。
幸福な体験の後の苦みに満ちた恐怖。満ちあふれる愛情と大きな喪失感。
キャロルお得意のモチーフだが、今作ではそれらがいつものファンタジー要素をギリギリに押さえられて(読み方によってはまったくナシで)描かれている。
ヴェルヴェットのような質感で描かれた部分があったかと思うと、ある時はコースター感覚で頁を繰る手ももどかしくといった部分もあり、極上の読書体験が味わえる。
ラストが釈然としないと思うか、見事にキマったと思うかは微妙かな。
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