『双生児』クリストファー・プリースト
「面白かった!」の一言で片付けるにはもったいないが、さりとてその面白さを説明しようとすると、周到な準備と詳細な解読が必要とされる、そんな作品がこの『双生児』だ。
間違いなく今年のベスト級の作品であり、小説を読む楽しみを知るものなら手にとって損はない。
ましてやプリーストの名を知る方には、迷うことなく今すぐ本屋に走ることをオススメしておく。
『逆転世界』に『ドリームマシン』と聞いてナミダがちょちょ切れる人、まもなく映画が公開される『プレステージ』の原作『奇術師』を読んで感心した人、寄ってらっしゃい。
双生児、歴史改変、替え玉、信用できない語り手、フラッシュバック、等々、さまざまな仕掛けが張り巡らされた、読書のツワモノが読み解くにも実に手応えのある緊張感を強いる内容である一方、小難しさは微塵もなく、ゆらゆらと揺れ動く語りの中をボヤボヤと読み進むだけの自分のような読者には、熟練した描写とリーダビリティの高い構成でリラックスできる読書体験をも提供してくれる。
大森望氏の解説を読んで、読みながら思い至らなかった点を幾つか気付かされ、さすがと感心する一方で、本を能動的に読み解こうとする習性を持つ読者は、整合性というものを嘲るように軽やかに飛び越えているかのように見えるこの作品に対し、完全に解読しきれないもどかしさをどこかで感じるのではなかろうかと思った。
その点、僕のようなうすらぼんやりとした読者は気楽なもんで、心地よく騙され翻弄されつつ、分岐されたいくつもの順列組み合わせが織りなす世界をただ彷徨えばよい。
とはいえ、何度も頁を遡ってあちこち読み返し、その時点を確認したくなる誘惑には駆られるのだが。
『魔法』をまだ読んでいなかったことを思い出したが、先日無事入手した。近いうちに読んで、また至上の読書の楽しみを味わおう。