『ダンシング・ヴァニティ』筒井康隆
久々にちょっと唸りましたな。
ひとつの場面が少しずつずらされながら何度も反復しつつストーリーは進行する。
そんな実験的な手法ながら実験のための実験に終わっておらず、様々な意図が見え隠れしつつ、作品に一種催眠的な効果を与えている。
さながらジャズのフレーズが反復するかのように、また何度も同じ夢をみるかのように。
さらに読み手がその反復自体をも楽しめる筆力はさすがといえよう。
これまでの筒井の読者ならば誰もが気付くように、従来の筒井の作品で扱われてきたテーマ、モチーフ、手法が集大成的に顔を出す。
ドタバタ、スラプスティック、歌舞伎、映画、演劇、戦争、疑似イベント、業界内輪ネタ、老い、電脳空間....etc.
それは単なる手癖的なことというより、かなり意図的であるように思うのは、作者のこの作品に賭ける意気込みみたいなものを感じさせられたせいもある。
そのことは作品内にとどまらず、筒井ワールド全体の中における反復、変奏といったことも意図されているように思えてならない。
「新潮」4月号の著者自身による自作解説にも詳しいように、この作品では「反復」に関して徹底的に考察され、あらゆることが試みられているのだ。