靖国問題 高橋哲哉(ちくま新書)
ご推察の通りあまり得意な分野の本でないのだが、何故手に取ったのかというと、近頃また世論を賑わせている話題にタイムリーなベストセラーになっているからということよりも、著者高橋氏のナゴヤ時代に教えを受けたことがあるからというまったく持って卑近な理由からである。
うすらぼんやりと新聞を読んで「靖国問題」といわれる「問題」の何が問題なのかわかったようなつもりになっているだけの僕のような人間にとっては、明晰に問題点を切り分け、目の前にきっちり差し出してくれる腕のいい肉屋のような本である。
「戦争で亡くなった人を偲んだり追悼したりすることの何がいけないんだろう?」「自分の国の戦死者を弔うことに他の国に何故とやかく言われなきゃならないのか」という無邪気な疑問には、靖国神社の役割は「追悼」ではなく「顕彰」にあり、それはすなわち「戦死の悲哀を名誉に換え、国民を新たな戦争や武力行使に動員していく」装置として機能してきたことを繰り返し実証することで答える。
新たな国立追悼施設(第二の靖国)の誕生を牽制しつつも、問題は施設そのものではなく「政治」にあると論ずる第5章が白眉であろう。
著者は最後の最後に明快な結論を導いた上で「靖国問題」を解消するための方策を打ち出しているのだが、それを読んで納得する人ばかりではないだろうなあと思わせるのがこの問題の根の深さなんだろうか。