『赤朽葉家の伝説』桜庭一樹
遅ればせながら読了。
リーダビリティは高い文章なんだけど、なんだかゆっくりゆったり読んでしまった。
期待に違わぬ佳作で堪能できた。
物語物語した作品かと思いきや、「時代」というものに対する著者の視点が一本筋を貫いており、そちらの部分でも感じるところがある。
基本的には落ち着いた筆致で書き継がれる年代記は、時折『ライト』な面を覗かせたりもするものの、バランスを崩すまでには至らず、多彩なキャラとエピソードで飽きずに引っ張られる。
後半、ミステリ的な部分が少し顔を出すが、それが軸となるわけではなく、物語の締めくくりに色を添えるといった感じ。
その部分で、これまで語られてきた世界に対し、「揺らぎ」が一瞬生じるのだが、その「揺らぎ」もまた軸となることはない。
それでいて、その「揺らぎ」の方に視点をおいた「読み」もできるのかなあ、と思わせる含みも残されてはいるような。
「真っ赤な嘘」と云うように。
明日発表される第137回直木賞の候補作となっている。