『ソラリス』スタニスワフ・レム

ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)
2度に渡って映画化もされているSFの名作の新訳。
『ソラリスの陽のもとに』という邦題でハヤカワから出ていたものを一応読んでいたが、細かい部分はかなり忘れてしまっている。
映画は2作とも未見。(タルコフスキーの方は部分的に見た気も...。)
さまざまなテーマを内包し、いろんな側面から語られる多面的な作品であるが、今回読んで一番考えさせられたのは、「我々は一体誰を愛しているのか」ということである。

惑星ソラリスの海は「生き」ており、人間の記憶・意識を再構成して実体化させることができる。ソラリスに到着した主人公の目の前には、昔、自殺させてしまった恋人が立ち現れるのだが、当然それはソラリスが実体化させた存在。
姿形は記憶の中の恋人とまったく同じであるが、昔の記憶も持ち合わせないし、会話もかみあわず異質な存在であることは主人公にとっても歴然としている。
はじめのうちは気味悪がり、その存在を抹消しようとさえする。
にも関わらず、やがて主人公はその存在を愛し始めてしまうのだ。

ストーリー自体の軸はこの主人公ケルヴィンと昔の恋人をかたどった存在ハリーとの関係にあるので、この作品を一種のラブストーリーとして見る向きがあるとのことだが、僕には信じられない。
まさにそうしたラブストーリー一般に冷や水を浴びせかけるようなビジョンを見せつけられてしまった思いだ。
我々が愛していると思いこんでいるものは、いったい何なのか。
この先は他者論なりコミュニケーション論なりの領域に踏み込んでいくことになるんだろうが、当然僕にそんな力量はない。
久々にSFを読んでいろんなことを想起した。
さすが名作。

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