本屋へ行くと、ほんのごく稀ではあるがピピッと来る本がある。
本の方で、こっちを呼んでいるのである。
前知識とか全然ナシで、書店で初対面する本で、である。
帯とかあとがき読んでの判断はそれからになる。まず、まったく無条件にその本を手に取っているのだ。
そうやって手に取った本はこれまでに、『ガダラの豚』、『姑獲鳥の夏』、『ハサミ男』なんかがあって、つまりまずハズレがない。
この『夜市』も、そのように呼びかけてきた本である。
帯に「日本ホラー小説大賞受賞作」とデカデカと書かれているが、本屋で見るまで今年の大賞がこんな名前の本だなどと知りもしなかったし、そもそも「ホラー小説大賞」などこれまで一冊も読んだことがない。さらにはいまや錚々たる顔ぶれの受賞作家達の作品ですら読んでないこの僕が、なぜかこの本につと手を伸ばしたこと自体、不思議である。
パラパラとめくり、どうしても気になって購入した。
で、どうだったか。
諸手を上げてとはいかないが、買って損はしなかったし、充分に楽しめた。
表題作と他一編の中篇集だが、そのどちらもが似た雰囲気(同一)の世界を扱っている。
この世とは違った別の世界。別の世界ではあるが、この世とは薄皮一枚、寄り添って繋がっている。
その異空間との間に出来た"ほころび"を通って、あちらの世界とこちらの世界を行き来するものの物語である。
こちらの世界に生を受けつつ、あちらの世界に残らざるを得ない、そんな話が叙情的かつ淡々と描かれている。
あっさりしすぎて少しコクが足りないかなあ、などと思ったりしたが、少し乾いた部分がないと、こうした叙情的な話を嫌う人もいるので、ちょうどよいかも知れない。
するっと読める明晰な文章だし、余韻も楽しめる。おススメ。